生成AIの流行により、「プロンプトエンジニア」への注目度が高まっています。中にはすでにAIを使いこなし、成果を上げている人や、「これから成果をプロンプトエンジニアはいらない」という意見を耳にする機会が増え、将来性に不安を感じている方もいるのではないでしょうか。この記事では、プロンプトエンジニアの需要や今後のキャリアについて、多角的な視点から解説します。プロンプトエンジニアの仕事内容や活用事例、そして「いらない」と言われる理由と必要とされる理由を詳しく説明することで、その真偽を検証します。さらに、AI技術の進化に伴うプロンプトエンジニアの将来性についても考察し、AI時代を生き抜くためのスキルについても言及します。この記事を読めば、プロンプトエンジニアという職業に対する理解が深まり、今後のキャリアプランを考える上で役立つでしょう。
結論として、プロンプトエンジニアという職種自体はいずれなくなる可能性がありますが、AIを使いこなすスキルはあらゆる職種で必要とされ、市場価値はますます高まっていくと予想されます。
プロンプトエンジニアとは
プロンプトエンジニアとは、ChatGPT、Claude、Geminiなどの生成AIに対し、最適な指示(プロンプト)を与えることで、求めるアウトプットを得る専門家です。生成AIは非常に強力なツールですが、その能力を最大限に引き出すには、的確な指示を出す必要があります。プロンプトエンジニアは、この指示出しのプロセスを最適化し、AIが効果的に活用されるように支援します。単にプロンプトを入力するだけでなく、AIの特性や挙動を理解し、出力結果を分析・評価しながらプロンプトを調整していく能力が求められます。
想定通りのアウトプットを出すために、AIへの指示を調整する仕事
プロンプトエンジニアの主な役割は、AIモデルが期待通りの結果を出力するようにプロンプトを設計、調整、改善することです。これは、単に質問を入力するだけでなく、AIモデルの特性を理解し、文脈、キーワード、制約などを適切に設定する必要があります。例えば、クリエイティブな文章生成、プログラミングコードの生成、データ分析、翻訳など、様々なタスクにおいて、プロンプトの質がアウトプットの質を大きく左右します。そのため、プロンプトエンジニアは、AIの「癖」を理解し、効果的な指示を出すための専門知識を有している必要があります。
プロンプトエンジニアの業務内容
具体的な業務内容としては下記のようなものがあげられます。
業務内容 | 詳細 |
---|---|
プロンプトの設計と作成 | クライアントの要望や目的に合わせて、最適なプロンプトを設計・作成します。様々なプロンプトテクニックを駆使し、AIから高品質なアウトプットを引き出すための試行錯誤を行います。 |
プロンプトのテストと評価 | 作成したプロンプトを実際にAIモデルでテストし、出力結果を評価します。必要に応じてプロンプトを修正・改善し、精度を高めます。A/Bテストを実施することもあります。 |
プロンプトの管理とメンテナンス | 作成したプロンプトを適切に管理し、必要に応じて更新・メンテナンスを行います。AIモデルのアップデートやクライアントの要望変更に対応するための柔軟性も求められます。 |
クライアントとのコミュニケーション | クライアントと密にコミュニケーションを取り、要望や課題をヒアリングします。技術的な内容を分かりやすく説明する能力も重要です。 |
AIモデルの研究と学習 | 常に最新のAI技術やトレンドを研究し、自身のスキル向上に努めます。新しいAIモデルの特性を理解し、効果的なプロンプト戦略を開発することも重要です。 |
プロンプトエンジニアに必要なスキル
プロンプトエンジニアには、以下のようなスキルが求められます。
- 論理的思考力:AIの動作原理や出力結果を論理的に分析し、問題点を特定する能力
- コミュニケーション能力:クライアントやチームメンバーと円滑にコミュニケーションを取り、要望や課題を共有する能力
- 情報収集力:最新のAI技術やトレンドに関する情報を積極的に収集し、自身のスキル向上に繋げる能力
- 言語能力:日本語だけでなく、英語で書かれた技術ドキュメントを理解する能力も求められる場合があります。英語のプロンプトが効果的な場合もあるため、英語でプロンプトを作成できる能力も重要です。
- 継続学習力:AI技術は常に進化しているため、新しい技術やツールを継続的に学習する意欲が重要です。
プロンプトエンジニアリングの活用場面
プロンプトエンジニアリングは様々な場面で活用することができます。代表的な例を以下に示します。
情報収集と整理
従来の検索エンジンでは難しかった、曖昧な情報収集が可能です。例えば、「最新のマーケティングトレンドについて教えてください。」といったプロンプトを入力することで、多様な情報源から関連情報をまとめて入手できます。さらに、「SEO対策について、初心者向けに解説してください。」のように、特定のターゲット層に向けた情報を取得することも可能です。
編集部では、「コストコは実際に安いのか?」を事実ベースで聞いてみました。
ブレインストーミング・網羅的な思考
新しいアイデアの発想や、既存のアイデアの改善に役立ちます。例えば、「既存の掃除機の問題点を10個挙げて、それぞれの解決策を提案してください。」といったプロンプトを入力することで、多角的な視点からの課題発見と解決策の検討ができます。また、「子供向けのおもちゃの新しいアイデアを10個提案してください。」といったプロンプトで、斬新なアイデアを生み出すことも可能です。
ご自身で考えた内容に対して「網羅的に補完してください」といった指示も有効です。編集部では試しに「バスケットボールを流行させる方法」を聞いてみましたが、人間が考えるよりも網羅性が高そうです。
プロトタイプ、モックアップの作成
プロンプトエンジニアリングを活用することで、Webサイトやアプリケーションなどのプロトタイプ、モックアップを迅速に作成できます。例えば、「ECサイトのトップページのデザインを3パターン提案してください。」といったプロンプトを入力することで、デザイン案を生成できます。これにより、デザインの初期段階におけるアイデア出しや、クライアントとのイメージ共有をスムーズに行うことが可能です。デザインツールと組み合わせることで、より精度の高いプロトタイプを作成することも可能です。
Anthropic社が提供するAI、ClaudeにはArtifactという機能があり(参考:What are Artifacts and how do I use them?)、マークダウンやHTMLだけでなく、フローチャートやReactでのUI作成など、そのまま使えるレベルのプロトタイプが出てくることもあります。試しに編集部が、この機能を使ってキャリア大全のデザインのモックアップを作成してみました。1分足らずでUIのモックアップが実際にできてしまいます。
仕分け・分類作業
大量のデータを効率的に整理・分類することができます。例えば、顧客からの問い合わせ内容を分類したり、商品データをカテゴリー分けしたりする際に役立ちます。具体的な例としては、「以下の文章をポジティブ、ネガティブ、ニュートラルに分類してください。」といったプロンプトが考えられます。これにより、手作業で行っていた分類作業を自動化し、業務効率化を実現できます。
コンテンツ作成の補助
ブログ記事、メールマガジン、広告コピーなど、様々なコンテンツ作成をサポートします。例えば、「キャッチコピーを考えてください。商品名は〇〇です。」といったプロンプトを入力することで、効果的なキャッチコピーを生成できます。ライターや編集者の業務負担を軽減し、質の高いコンテンツ制作を支援します。
翻訳・ローカライズ
多言語対応が必要な場面で、迅速な翻訳・ローカライズを支援します。例えば、「この文章を英語に翻訳してください。」といったプロンプトで、簡単に翻訳作業を行うことができます。DeepLやGoogle翻訳などでは、文意がそのまま翻訳されますが、プロンプトでは現地の人にとってより効果的な表現へと書き換えてくれます。
コード生成
簡単なプログラムコードを生成することができます。例えば、「Pythonで、リスト内の要素の合計を計算する関数を作成してください。」といったプロンプトを入力することで、プログラミングの初心者でも手軽にコードを作成できます。ただし、複雑なプログラムの生成は難しい場合もありますが、エラー内容をコピペで伝えることで修正してくれることもあります。
学習支援
新しい知識の習得や、理解度の確認に役立ちます。例えば、「日本の歴史について教えてください。」といったプロンプトで歴史の概要を学習したり、「この数学の問題の解き方を教えてください。」といったプロンプトで問題の解き方を学ぶことができます。パーソナライズされた学習体験を提供することが可能です。
活用場面 | 具体的なプロンプト例 | 期待される効果 |
---|---|---|
市場調査 | 競合他社の製品・サービスについて比較分析してください。 | 競合分析の効率化、新たな市場機会の発見 |
顧客対応 | 顧客からのクレームに対して、適切な対応策を提案してください。 | 顧客満足度の向上、対応時間の短縮 |
アイデア出し | 新しいビジネスアイデアを10個提案してください。 | 新規事業開発の促進、イノベーションの創出 |
プロンプトエンジニアがいらないと言われる理由
昨今、生成AIの急速な進化に伴い、プロンプトエンジニアという職業の必要性について疑問の声が上がっています。ここでは、プロンプトエンジニアがいらないと言われる主な理由を詳しく解説します。
AIが進化すればプロンプトが不要になる
現在、プロンプトエンジニアはAIから望ましい出力を得るために、試行錯誤しながらプロンプトを調整する役割を担っています。しかし、AI技術は日々進化しており、近い将来、人間が複雑なプロンプトを入力しなくても、AIが人間の意図を理解し、高精度なアウトプットを生成できるようになる可能性があります。AIが高度に発展すれば、プロンプトエンジニアの仕事は自動化され、人間の介入は不要になるという見方もあるのです。
情報が溢れておりキャッチアップしやすい
プロンプトエンジニアリングに関する情報は、インターネット上に豊富に存在します。ブログやYouTube、オンラインコミュニティなどを通じて、最新のテクニックやノウハウを容易に学ぶことができるため、専門のエンジニアを雇う必要性は低いと考える人もいます。誰でも無料で情報にアクセスできる環境において、プロンプトエンジニアという専門職の希少価値は薄れていく可能性があります。
また、ChatGPTをはじめとする生成AIサービスの中には、プロンプトの提案機能や、効果的なプロンプト例を紹介する機能が搭載されているものも増えています。これらの機能を活用することで、初心者でも比較的簡単に質の高いプロンプトを作成できるため、プロンプトエンジニアに依頼するメリットは減少していくでしょう。
データサイエンスやエンジニアリングなどの特別なスキルを必要としない
プロンプトエンジニアリングは、必ずしも高度なプログラミングスキルやデータサイエンスの知識を必要としません。もちろん、専門知識があればより高度なプロンプトを作成できる可能性はありますが、基本的な操作方法を理解していれば、誰でもプロンプトを作成し、AIを活用することができるため、専門のエンジニアを雇う必要性は低いと考える企業も少なくありません。
下記の表は、一般的な職種とプロンプトエンジニアに必要なスキルを比較したものです。
職種 | 必要なスキル |
---|---|
プログラマー | プログラミング言語、アルゴリズム、ソフトウェア開発手法など |
データサイエンティスト | 統計学、機械学習、データマイニング、プログラミングなど |
プロンプトエンジニア | 論理的思考力、言語理解力、AIの特性理解、特定分野の専門知識(場合による) |
現時点では、プロンプトエンジニアに求められるスキルは、他のIT職種に比べて低いと言えるでしょう。そのため、代替性が低い専門スキルを持つ人材を雇用するよりも、既存の社員にプロンプトエンジニアリングの研修を受けさせる方が、企業にとってコスト効率が良いと判断されるケースが増えています。
これらの理由から、プロンプトエンジニアという職業は一時的な流行に過ぎず、将来的には需要が減少していくという意見が存在するのです。しかし、一方で、AIの進化によってプロンプトエンジニアの重要性が増していくという見方もあります。
プロンプトエンジニアが必要とされる理由
昨今、生成AIの発展が目覚ましいですが、だからといってプロンプトエンジニアがいらなくなるわけではありません。むしろ、現時点では、プロンプトエンジニアの需要は増加傾向にあります。なぜなら、AIを使いこなすにはプロンプトの調整が現に必要だからです。以下に、プロンプトエンジニアが必要とされる具体的な理由を詳しく解説します。
AIはまだ完成されていない
現状のAIは完璧ではなく、指示の出し方によって出力の質が大きく変動します。プロンプトエンジニアは、AIの特性を理解し、最適な指示を出すことで、高品質なアウトプットを得ることができます。単にキーワードを入力するだけでは、AIの潜在能力を引き出すことはできません。質の高いプロンプトを作成するには、AIモデルの動作原理、学習データの特性、プロンプトの構造などを深く理解する必要があります。プロンプトエンジニアは、これらの知識を駆使し、AIを最大限に活用するための指示を設計します。また、AIが出力した情報の真偽を検証し、必要に応じて修正を加えるのもプロンプトエンジニアの重要な役割です。現状では、AIが出力する情報は必ずしも正確とは限らないため、事実確認や修正作業は欠かせません。
AIを使っている人は多いが、使いこなせている人は少ない
AIツールは誰でも簡単に利用できますが、質の高いアウトプットを得られる人とそうでない人がはっきりしています。プロンプトエンジニアは、AIの特性を理解し、効果的なプロンプトを作成することで、ビジネス上の課題解決に貢献します。
あらゆる職種で活用できる
プロンプトエンジニアリングは、特定の業界や職種に限らず、様々な分野で応用可能です。例えば、以下のような職種で活用されています。
職種 | 活用例 |
---|---|
Webライター | 記事執筆、タイトルや見出しの生成、誤字の修正 |
デザイナー | 画像生成AIを活用したデザイン作成、デザインのアイデア出し |
プログラマー | コード生成、デバッグ、ドキュメント作成 |
マーケター | 広告コピー作成、市場調査、競合分析 |
翻訳家 | 高精度な翻訳、多言語対応コンテンツの作成 |
法務・労務 | 文章の差分検証、論点の抽出 |
このように、プロンプトエンジニアリングは、様々な職種で活用されており、今後ますます需要が高まると予想されます。
プロンプトエンジニアの将来性
生成AI技術の急速な進化に伴い、プロンプトエンジニアの将来性については様々な議論がされていますが、「プロンプトを書くだけ」のスキルだけでは、将来的に市場価値を維持することは難しいと予想されます。しかし、AIを真に理解し、その能力を最大限に引き出すスキルを持つ人材は、今後ますます重要性を増していくでしょう。
プロンプトエンジニアの需要の変化
プロンプトエンジニアを取り巻く状況は、今後大きく変化していくと見られています。単純なプロンプト作成だけでなく、AIの特性を理解し、高度な活用ができる人材が求められるようになるでしょう。
AIの進化による変化
AI技術の進化は目覚ましく、近い将来、より高度な自然言語処理能力を持つAIが登場する可能性があります。そうなれば、現在のような単純なプロンプト入力ではなく、より複雑で高度な指示、あるいは人間が介入する必要のないレベルでの自動化が進む可能性も考えられます。そのため、プロンプトを書くだけのスキルだけでは、市場価値を維持することは難しくなるでしょう。
求められるスキルセットの変化
一方で、AIの進化に伴い、AIを深く理解し、その能力を最大限に引き出すためのスキルセットが重要性を増します。単にプロンプトを書くだけでなく、AIモデルの特性や、出力結果の評価、改善のための分析力など、より高度なスキルが求められるようになるでしょう。具体的には、データ分析、プログラミング、機械学習の知識、ビジネス課題への応用力などが挙げられます。
特定領域の専門知識と組み合わせたプロンプトエンジニアリング
特定の専門分野の知識とプロンプトエンジニアリングを組み合わせることで、将来性は大きく広がります。例えば、医療、法律、金融などの専門知識を持つプロンプトエンジニアは、AIを活用してそれぞれの分野における課題解決に貢献し、高い市場価値を持つと考えられます。
専門分野 | 活用例 |
---|---|
医療 | 患者の症状に基づいた診断支援、創薬研究の効率化 |
法律 | 判例検索、契約書作成の自動化、下書き |
金融 | リスク評価、投資判断の支援 |
AIを使いこなす人材の市場価値
自分の専門性を拡張する意味合いでAIを使いこなし、自らの業務を効率化したり、新しい価値を創造できる人材の市場価値は、今後ますます高まっていくでしょう。これからの時代は、AIをツールとして活用し、自らの能力を拡張していくことが求められるでしょう。生成AIツールを積極的に活用し、常に最新の技術やトレンドにアンテナを張ることが重要です。
プロンプトエンジニアという職種名は、将来的には変化する、あるいは無くなる可能性も考えられます。しかし、AIを理解し、使いこなすスキルは、あらゆる職種において必須スキルとなるでしょう。変化に柔軟に対応し、常に学び続けることで、AI時代を生き抜くだけでなく、キャリアを大きく飛躍させることができるはずです。
Bloombergによると、2023年3月時点では年収33.5万ドル(約4,500万円)の求人も存在しました。機械学習やコンピューターサイエンス、数学の知識を持ち合わせ、AIのブラッシュアップを行う人材の需要は高いと言えます。(参考:プロンプトエンジニアの需要急増、年俸4500万円の求人も-ChatGPTブームで)
まとめ:プロンプトエンジニアという職種は無くなる可能性があるが、AIを使いこなすスキルは市場価値が上がっていく
この記事では、「プロンプトエンジニアはいらない」という意見の背景にあるAIの進化のスピードとプロンプトエンジニアリングの学習コストの低さについて解説しました。確かに、将来的にAIが高度に進化すれば、誰でも簡単な指示で高品質なアウトプットを得られるようになる可能性はあります。そうなれば、プロンプトを書くだけの仕事は需要が減少するでしょう。
しかし、AIを使いこなすスキル自体は、ますます重要性を増していくと考えられます。現状でも、AIを使いこなせている人は少数派です。ChatGPTなどの生成AIを使いこなして、業務効率化や新しいビジネスモデルの創出につなげられる人材は、あらゆる業界で重宝されるはずです。特に、AIの特性を理解し、適切な指示を出してアウトプットの質を高められるスキルは、今後も市場価値が高いでしょう。つまり、プロンプトエンジニアという職種名はなくなるかもしれませんが、AIを使いこなす能力は、あらゆる職種で必須スキルとなっていくと考えられます。