最近求人票でよく目にする「カスタマーサクセス」という職種。この記事では、「やめとけ」と言われることもあるカスタマーサクセスの現実とその仕事に対する一般的な誤解について詳しく解説します。具体的には下記ポイントについて解説します。
・カスタマーサクセスが「やめとけ」と言われがちな理由
・「辛くない」カスタマーサクセスとしての仕事の選び方
・カスタマーサクセスのキャリアを成功させる方法
・カスタマーサクセスとして成功している人の事例
カスタマーサクセスが「やめとけ」と言われる理由
カスタマーサクセスは、顧客の満足度を高めて企業の成長を促進する重要な役割を果たしています。しかし、その意義に反して、「やめとけ」と言われている場合があります。この理由は多岐にわたるため、本章で解説します。
単なるクレーム処理の部署だと思われている
カスタマーサクセスの意義に反して「クレーム処理だけを担当する部署」という誤った誤解が広がっています。多くの人々は、カスタマーサクセスが単なる問題解決の仕事だと考え、業務に魅力を感じにくいことがあります。実際には、カスタマーサクセスは顧客との関係を深め、彼らが製品やサービスから最大の価値を引き出せるように支援することで、ビジネスの成功を後押しする役割を担っています。しかし、この誤解が払拭されない限り、職業としての選択肢に疑問を持たれることがあります。
業務量が多い
カスタマーサクセスは、非常に多岐にわたる業務を迅速かつ正確に処理する必要があります。新規顧客のオンボーディングやトレーニング、既存顧客に対する定期的なフォローアップ、トラブルシューティング、さらにはアップセルやクロスセルの機会の発見も業務の一部です。これだけ多くの役割を一手に担い、複数顧客と折衝するため、業務量が多く「ハードワークな職種」として捉えられることもあります。
責任が重い
カスタマーサクセスは、顧客の継続契約・解約に直接関わる部署です。このため、責任が重大であり、特に重要顧客を担当する場合には、高いプレッシャーを感じることがあります。具体的な例として、解約率の増減やクレーム数など、自分の業務が組織全体の売上に直結するため、失敗が許されない環境のように思われている場合があります。
求められるスキルが広い
カスタマーサクセスは、顧客対応に加えてデータ分析、プロジェクト管理、テクノロジーに関する知識など、多方面にわたるスキルを求められます。これらのスキルをバランスよく習得し続けることは、非常に難しく感じることが多くあります。このように幅広いスキルセットがなければ成功しづらいと認識されているため、多くの人が強い負担を感じます。
自社製品・サービスの幅広い知識が求められる
カスタマーサクセスには、自社の製品やサービスについて深い知識が求められます。それは、単なる表面的な知識にとどまらず、技術的な詳細に関する知識にまで及びます。例えば、製品の技術的な細部を理解していないと、顧客に対して的確なアドバイスができません。Zendeskのベストプラクティスによれば、成功するカスタマーサクセスには、このような深い理解が必要です。他の業界出身者にとっては、最初のハードルが高く感じる場合もあるでしょう。
目標数値が高く、成果が出にくい
多くの企業では、カスタマーサクセスに対して継続契約率やMRRなどの目標が設定されています。これらの目標は、企業の成長戦略の中核を成すため、達成することが極めて難しいとされています。特に、顧客満足度を定量的に測定するためには多くのデータを分析する必要があり、会社によっては定性的に評価されることも多いため、わかりやすい顧客の声や成果数値が求められることが多いです。そのため、うまくいっていない組織では「頑張って働いているのに、評価されなくてしんどい」といった声が聞かれることもあります。
減点法的な評価
先ほどもお伝えしたとおり、顧客の継続率やMRRを追う上で、やはり目がつきやすいのは「解約がどれくらい発生したか」です。そのため、企業によっては解約が想定よりどれくらい多いか、が評価に響いてしまう場合もあります。解約の理由はカスタマーサクセスだけでなく、プロダクトや顧客事情による部分も大きいため、この評価方法では、いくら他の分野で努力しても成果が認められないことがあります。例えば、予算やプロダクトの問題により解約が発生して仕舞えば、支援した顧客の対応満足度が高くても十分な評価を得ることができないこともあるでしょう。
顧客の要求に応え続ける必要がある
カスタマーサクセスは多様な顧客のニーズに応えていかなければなりません。顧客一社一社にとってはカスタマーサクセスが代表窓口であるため、対応を蔑ろにするわけには行きません。個々の顧客の状況を理解し、顧客の成功のために何をするべきかを随時提案していくことが期待されています。時には非常に高い期待値に応えきれない状況や、プロダクトの欠陥に対する指摘が集中する場合もあります。問題解決力を常に試されるストレスが、「やめとけ」といった意見に繋がることも多々あります。
「辛くない」カスタマーサクセスとして働く方法
プロダクトが優れている、あるいはプロダクトに共感できる会社を選ぶ
カスタマーサクセスが「辛くない」と感じられる環境作りの第一歩は、優れたプロダクト会社を選ぶことです。これは非常に重要なポイントです。高品質なプロダクトは、顧客からの信頼を得やすく、トラブルや不満が少ないため、ストレスは少なくてすみます。逆に、問題が頻発するプロダクトのカスタマーサクセスでは、日々のクレーム対応に忙殺される可能性があります。
自分が共感できるプロダクトを持つ会社を選ぶのも一手です。例えば、医療に対して思い入れがある方は医療系のSaaS、教育に関わりたいと思っている場合はEd-tech系の企業で働く、など「なぜ自分がここで働いているのか」「なぜこのプロダクトを使うべきなのか」がはっきりしていれば、自ずとモチベーションになるのと同時に、スキルアップや顧客対応もやりやすいことが多いでしょう。
例えばこのかたは、社会への貢献や「子どもが等しく学べる社会を作りたい」という思いで、Ed-techを提供するMonoxer(モノグサ)への転職を決めたそうです。
引用元:(note)【INTERVIEW / CS】誰一人取り残されない学びの実現に向け、Monoxerから教育を変えていく
カスタマーサクセスとして働きやすい会社を選ぶ
また、カスタマーサクセス担当者が働きやすい環境を提供する会社を選ぶことも重要です。これは、ただ給与や福利厚生が良いという意味ではなく、社内の風通しの良さや、しっかりとしたサポート体制が整っていることを意味します。カスタマーサクセスでは、顧客からの要望や顧客の課題をベースに、自社のプロダクト・サービスを改善していくことが求められるため、プロダクト開発の部署や、マーケティングの部署と連携しやすい社内の風通しの良さは重要でしょう。また、対応する顧客から見れば社歴にかかわらず、一人前のプロとしての動きが求められるため、必要な情報をすぐに回収できたり、先輩と協力できるサポート体制が重要です。
また、フレックスタイム制度を活用して柔軟に働ける環境や、リモートワークのサポートがあり、さらに職場内コミュニケーションの透明性が高い企業であれば、働きやすさが大幅に向上します。
他部署と連携し幅広い知識を身につける
カスタマーサクセスに求められるのは、製品知識の深さだけでなく、他部署と連携した問題解決です。技術部門と知識を共有することでより高度な技術理解が得られたり、改善を施すことで顧客の問題を解決できる場合があります。また、営業部門と連携することで市場トレンドや営業手法について学び、顧客にフィードバックできたりするとカスタマーサクセスとして顧客に重宝され働きやすくなりますし、何よりもキャリアアップに繋がりやすいです。
その先のキャリアパスを描く
カスタマーサクセスの職種には多様なキャリアパスが存在し、自身のビジョンを描くことが重要です。
マネジメントとしてのキャリア
いわゆるマネジメント職です。一般的にカスタマーサクセスマネージャー(CSM)と呼ばれます。管理職としてのスキルを磨き、チーム全体を率いていく力を培うことができます。大手外資系企業のCSMだと、1,000万円を超える年収がオファーされることもあります。
PM(プロジェクトマネージャー)としてのキャリア
プロジェクトマネージャー職は、プロダクトのライフサイクル全体に深く関与し、開発からリリースまでを指揮する役割を担います。
カスタマーサクセスは複数の顧客の問題に対して、緊急度と重要度を勘案して優先度を決め、関係部署を巻き込んでいく仕事のため、相性は良いでしょう。
PdM/PMM(プロダクトマネージャー/プロダクトマーケティングマネージャー)としてのキャリア
PdMやPMMは、それぞれプロダクトの開発とマーケティング戦略をリードする職種です。
カスタマーサクセスとは縁遠い職種のように感じますが、カスタマーサクセスを極めると、顧客の対応を通じて自社の製品の知識だけでなく、「どう改善すべきか」のポイントも指摘できるようになるため、実はプロダクト系の企画職とのシナジーがあります。
カスタマーサクセスからのキャリアは幅広い
このようにカスタマーサクセスからのキャリアは幅広いです。カスタマーサクセスのキャリアパスやカスタマーサクセスマネージャーについてで詳しいキャリアパスについてもご覧ください。
カスタマーサクセスとして働くメリット
需要が伸びる可能性が高い
カスタマーサクセスは、企業の成長において重要な役割を果たしています。特にSaaS市場の拡大に伴い、顧客維持と成長に焦点を当てたこの職種の需要は今後さらに増加するでしょう。これは、顧客ライフサイクル全体を通じて持続的な関係を築く能力が企業の競争力を高めるため非常に重要であるからです。
カスタマーサクセスの将来性については「カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い」を参照ください。
営業経験・接客経験が活きやすい
カスタマーサクセスは、営業や接客のスキルを活かせるフィールドであるため、これらの経験を持つ人にとっては転職しやすい職種です。顧客との対話を通じて信頼感を構築し、長期的な関係を育むことが求められるため、これまでの経験が大いに役立ちます。特に、Business Insiderの報告によると、営業出身者が高いコミュニケーションスキルを活かしてカスタマーサクセスで成果を出しています。ここで重要なのは、顧客が製品やサービスを活用する過程での課題を一緒に解決する姿勢です。
IT業界でのキャリアパスが広がる
カスタマーサクセスは、IT業界への足がかりとして最適な職種です。この職種では、特にSaaS企業で働くことで最新の技術に触れながら、顧客の問題解決に直接的に関与することができます。これにより、製品管理や営業、さらにはプロダクトマネジメントなど他の職種へのキャリアパスが広がります。
スタートアップ・ベンチャーで働きやすい
スタートアップやベンチャー企業は、新しい価値の提供を重視するためカスタマーサクセスの果たす役割が大きい職場です。これにより、急成長する企業でのダイナミックな働き方を経験できます。スタートアップではフラットな組織で自由度の高い業務に取り組むことができ、自分のスキルを最大限に生かせます。スタートアップにおいては、顧客からのフィードバックの直接的な反映が可能で、製品やサービスの向上に寄与しやすい環境となっています。
カスタマーサクセスに転職した人の事例
不動産営業から、不動産系ベンチャーのCSに転職した方の事例(男性・30歳)
「不動産業界で営業職として数年間働いていました。営業の現場で顧客対応能力を身につけることができ、お客様に喜んでもらえることはとてもやりがいに感じていましたが、もっと挑戦できる環境はないか、自分のスキルの幅を広げられるところはないか、と考えてベンチャーへの転職を決意しました。
不動産の知識を活かしながら働ける不動産系ベンチャーで、業界や顧客への知識は活かしながら、製品知識を身につけられる職種としてカスタマーサクセスを紹介されました。ベンチャーで働いている知人から話は聞いていたので、不安もありましたが、チャレンジしてみることにしました。
お客様が喜んでもらえるように動く、という自分の働き方は変えずに、新しいスキルを身につけられるため、毎日が充実しています。先月にはチーム賞も受賞し、リーダーに昇格できました。」
アパレルの店長から、SaaSのCSに転職した方の事例(女性・33歳)
「アパレルが大好きで、店長まで働いてきましたが、ファッション業界の先行きに不安を感じ、新たなキャリアを考えることに。『逆にITか?』と思い、IT系の仕事を探していると、カスタマーサクセスという職種に出会ったんです。
店舗からオンラインに変わり、製品も服からシステム、と全く別の経験のように感じますが、どうやったらお客様の問題を解決できるか、満足いただけそうか考える部分は同じなので、やりがいがありますね。
前職と比較して休日も取りやすくなり、趣味に投資できる余裕もできました。」
まとめ
カスタマーサクセス職が「やめとけ」と言われる理由は、クレーム対応のイメージや業務量の多さ、求められるスキルの広さなどがあります。しかし、これらの理由は、適切な会社選びやプロダクトの良さ、他部署との連携を図ることで避けることが可能です。また、スタートアップやベンチャー企業での働きやすさや、IT業界でのキャリアパスの広がりはカスタマーサクセス職の大きなメリットです。自分に合った職場を選び、長期的なキャリアパスを描くことで、やりがいや成功体験を得ることができるでしょう。